夫婦別室のほうがお互いうまくいくことも
1.脱子育て・定年世代の路線選びは自由自在
まず、ここでいうシニアとは、50代以降のポスト子育て・定年世代をいいます。
この世代はFA(フリーエージェント)世代。仕事や子育てという重たい拘束やしがらみから解放され、自分本位に自由で思い通りの暮らしが楽しめる世代です。どの路線もそれこそ自由に選べるのです。
2.シニアの特権、わがままな街選び
そこで、路線選びについてはこれくらいで済ませ、いきなり街選びに入っていきたいと思います。街を選ぶにあたっては、しがらみがない分、より自分が志向するライフスタイルを前面にうちだした、わがままな街選びが可能です。
子供が社会人になり独立したシニアカップルの場合は、日本人の典型的なファミリーの暮らし観を持つ「家族の幸せが一番大事!とことん家族サービス型」以外に、子供や仕事といったしがらみから解放された夫、妻それぞれが独自に志向するライフスタイルがあります。妻の意向が強いライフスタイルとしては「生活や趣味を通して仲間づくり スローライフ実現型」があります。子育てがひと段落して趣味を楽しむ余裕がでてきた主婦に多く、フラワーアレンジメントやお菓子作りの教室を開くなど積極的に活動したい要望を持っています。こうした主婦には自然環境が豊かで近所付き合いも盛ん、空が広々と見える街を郊外型・トカイナカ型の多摩西、湘南、横須賀、三浦、埼玉西、内房・外房、茨城県南部エリアから絞り込むのがお勧めです。
もうひとつ、脱子育て主婦が志向するのが「変化のある暮らしを楽しみたい型」のライフスタイルです。これまで住んでいた子育て環境の良い郊外では映画・演劇、コンサートなど、気軽に外出して楽しむ趣味は持ちにくいので、景観・街並みがきれいで交通アクセスの良い都心型の城南エリアや中間型の城西、城東などの中から自分に相応しい街を絞り込み、思い切って転居することで、新たな生活を手に入れる人たちが年々増加傾向にあります。
一方、夫サイドの意向が強いのが「世間にちょっと疲れ気味 自分の居場所を模索型」です。家族のコミュニケーションより、自分自身の趣味や生きがいが得られる街を重視する層が多いのが特色です。このタイプの夫は郊外というよりもっと思い切って田舎暮らしのできる街に暮らしたいという願望を持っています。定年を控えた夫は、組織のしがらみに疲れ気味で、これまでの人生を仕切りなおす時期にきています。トカイナカ型の多摩西、湘南、横須賀・三浦、埼玉西、内房・外房、茨城県南部といった街を選択するべきです。田舎で農産物を育てる自給的な暮らしと、同じような考えを持つ友人や地域の人とのオープンな付き合いができるライフスタイルの実現を目指します。

3.シニアの住み替えには2つの課題が
ところで、脱子育てカップルが自分達にふさわしい街を探して住み替えるにあたっては、2つの課題を解決する必要があります。
1つ目の課題は夫婦の異なるライフスタイルの主張に折り合いをつけるということです。農山村の自然を思考するロマン派の夫と、都心の便利なところで友人と趣味や観劇、食事を楽しみたい現実派の妻、相対する意見をひとつに収斂できるかどうかが最初の関門になります。住み替え実践者の多くは、田園生活と都会生活が両立するトカイナカを選ぶことで、双方の折り合いをつけているようです。
トカイナカなら東京から1.5時間程度の距離にあり、自然が豊かでありながら、その気になれば夕方、東京の都心で開かれるコンサートを楽しんだ後、おしゃれなレストランで食事をしても、その日のうちに帰宅できる立地です。当初、多くの夫(たいがい妻より夫のほうが住み替えには積極的)は精力的に八ヶ岳、軽井沢、伊豆といったブランド・リゾート地に憧れて、住み替え先を探し始めます。でも、土地・物件価格の高さ、交通費などの移動コスト、オンシーズンの渋滞、冬の寒さなどの現実に直面し、トカイナカ立地へと希望立地を移行していきます。結果として都会志向の妻も渋々ながら、首を縦に振ることになりますが、移住先としてトカイナカの選択をすることで、住み替え計画が実行に移されるケースは多いようです。
2番目の課題は、住み替え後の暮らしかたです。
定年退職するまでのサラリーマンは、職場と自宅を往復する振り子運動を規則正しく繰り返すことで、暮らしのリズムを保ってきました。定年後の暮らしのリズムを何で保つかが大きな課題として残ります。トカイナカへの住み替え体験者は家庭菜園での野菜づくりと犬の散歩を日課とし、それが暮らしのリズムの基調となります。そこに、大工仕事、絵画や写真のサークル活動、ゴルフなどの趣味が加わり、年に1~2回、趣味の仲間たちと旅行を楽しむことで暮らしのリズムに変化をつけるのが典型的な暮らしかたのようです。なかには、週に3日ほど、これまで勤務した会社から請われて、後進の育成のために嘱託として勤務することで、振り子運動を継続するという人も散見されます。
暮らしのリズムの基調を、仕事以外の何で形成するか、またリズムの変化は何でつけるかを自らプランニングすることは、40年近く受動的に振り子運動を続けてきた者にとっては最も難易度の高い課題だと思われます。
高校卒業後は大学へ、大学を卒業後は就職といった定型化された進路のない、定年後のライフプランニングは容易なことではありません。住み替え実践者の多くは住み替え先の選定、土地取得、住宅建築のプロセスを概ね3年がかりで踏みながら、自分探し、夫婦の関係の再構築を図っているように思われます。
50代以降の住み替えは、定年後のライフプランを設計する機会の創出という意味において、有効な手段のひとつだといえるのではないでしょうか。
ところで、私も現在は、この世代に属します。実は3年前から定年後に暮らすための住宅探しをしています。最初は単なるあこがれから、軽井沢、伊豆、湘南を見て歩きました。京都にも足を伸ばし中古住宅を探した経緯があります。しかしながら、どこも東京の都心から距離が遠い、土地や住宅価格が高い、といった理由で断念してしまいました。この間に思ったことは、「一体自分は何がしたいのか」がはっきりしないと、どんな暮らしぶりになるのかが分からない。だから、どんなところに、どんな住宅を持てばよいのか分からない、ということでした。そこで原点に戻り、定年後の暮らし方についてまず考えることから始めています。
4.シニアカップルに向くマンション
シニアカップルに向くマンションは、前々回にご紹介した共働きカップルに向くものと基本は同じだと考えます。たとえ夫婦といえどもお互いが自立した個人として仕事や趣味が楽しめる「誰にも邪魔されないプライベート空間」がコンセプトになります。加えるとしたら、プライベート空間を更に追求した夫婦別寝室という考えかたです。仕事の束縛から解放されると時間の使い方も自由になり、深夜、もしくは明け方まで読書やTVを見る妻と、朝早くから畑仕事に精を出す夫とではまるで、生活の時間帯が異なってきます。そんな問題を解決するための夫婦別室。案外実践者は多いようです。
また、この世代にはバリアフリーは必須ですし、寝室と隣接したところにトイレがあったほうが安心でしょう。
最後にシニアカップルに向くマンションの条件を整理しておきます。
1、路線や街選びは自分のライフスタイルに即して自由自在に選べる
2、シニアカップル特有の住み替え課題は2つ
・夫婦で異なるライフスタイルの志向にどう折り合いをつけるか
・住み替えた後の暮らし方が決まらないと、どこに住むかが決められない
3、夫婦別室のほうがお互いうまくいくことも
最終回のごあいさつ
昨年4月より毎月連載してきた不動産コラムは、今回で最終回となりました。
1年間お付き合いいただき有難うございました。
自分に相応しい住まいというと、間取りやインテリアの話になりがちですが、このコラムで私が一番言いたかったことは、立地の重要性です。自分に相応しい立地を絞り込むことができれば、結果として自分に相応しい住宅に巡り合う確率が高くなるということでした。
また、自分に相応しいという基準は、ライフステージとライフスタイルの掛け合わせの結果で決まるということも、2番目に言いたかったことなのです。
とはいえ、これまで連載してきたコラムの内容だけでは、言いたいことのほんの一部しかお伝えできていないという反省も残ります。そこで現在、6月発行の予定で、コラムの内容をより発展させた書籍を執筆中です。完成しましたら、このホームページでもご紹介いただく予定です。是非ご一読いただければと存じます。
最後に、皆さまひとりひとりが自分らしい住まいに巡り合われることをお祈りしつつ、ご挨拶とさせていただきます。
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